金曜日の午後、若い研究者のO君と雑談をしていたとき、同君の専門のコミュニケーション論から塾の仕事へと話題が変わり、英語を教えるときの苦労話になりました。
どうやら中学生が英語で挫折するのは不定詞が最初でその次が関係詞ということです。何しろ、不定詞は同じ形 to do ~ が、名詞、形容詞、副詞として使用されるというから嫌になります。一応苦肉の策は
~すること → 名詞用法 例えば to study English「英語を学ぶこと」
~するための → 形容詞用法 例えば to study English「英語を学ぶための」
~するために → 副詞用法 例えば to study English「英語を学ぶために」
と覚えて、その文の中で、このどれかで意味の通るものを選んで文意をとる、という手があります。一種、ジグソーパズルに持ち込むといった、よく単語レベルでは行われている方法です。
基本的には、不定詞は
to + 動詞(不定形/原形)
という、いわゆる前置詞句の仕組みと同じなので、それと同じように形容詞句(修飾句としては名詞にかかる)、副詞句(動詞などにかかる)になります。今この動詞をよく他のインドヨーロッパ語(ドイツ語、フランス語など)で訳しているように「~すること」とするなら
to + do 「~すること」
という構造で、“to + 名詞”の前置詞句と同じように考えると、前置詞 to の意味
~の方へ[に]、~に向かって [方向]
~に対して [対象]
~のために [目的]
から(さらに動詞が動作/行為を表すことから抽象的な意味を採ると)
~すること + に対して/のために → ~するために
の意味を得るのは容易です。また、これを形容詞句用に変えて
~するための
までの説明も難しくありません。
そこで、名詞としての意味ですが、実は to は次に来る動詞が不定詞であることを示すために付けられた語ですので、この意味をゼロとすれば
~すること
となり、これは意味の上では「前置詞句」ではない、と言っていいでしょう。
このような説明であれば中学生も十分理解できるに違いありません。もっとも前置詞は目的語をとるということになっていて、そうなると動詞を目的語にするときは動名詞(doing)ということになり、次のようなよく使用される形態があります。
be afraid of doing ~ 「~することを恐れる」 (← ~することに関して恐れている)
look forward to doing ~ 「~するのを楽しみにする」 (← ~することに対して前向きに見る)
したがって、不定詞は前置詞という概念の外におくという作戦に出ているわけです。
そこでO君は、なるほどなるほど、と言って(おそらくこんなことは知っていたに違いないのですが、それを思い出したふりをして)では今日は時間がないので、不定詞の見分け方については後日質問しましょう、と帰っていきました。
このようなことは英語を教えている人は、ほとんど知っていることで授業などでは口にしているに違いありませんが、参考書等には書かれないので、あえて今月のネタにしたという次第。
御機嫌よう。質問を待っています。