前置詞 of についての断章(5)―同格―

所属という分類の中の下位分類として同格が挙げられています(『ジーニアス英和辞典』)。今回は「同格のof 」と言われる用法について考えてみましょう。特に形として the A of B を「BというA」、比喩的な用法である a(n) A of B を「AのようなB、AみたいなB」のこの二つに分けられています。例として

the name of John「ジョンという名前」

an angel of a girl「天使のような少女」

が挙げられていますが、ここでは今まで考えてきたような

  部分 of 全体

  全体 of 部分

という意識は希薄で、AとBの概念はほぼ同等に配されていると言えるでしょう。「名前」がすなわち「ジョン」であり、「天使」と「少女」を重ねて表現していることになります。後者に関しては「天使」のもつ属性を「少女」に当てはめている分だけ、部分で全体を説明しようとする方向がないとは言えません。そう考えると和訳の構造にあるように

an angel of a girl

天使のような少女

とofまでをひとまとまりと考えることで、数量を表す句(a cup of tea)と同じようにとることもできます。するとこのangelに限定詞(this、that、someなど)がつくこともありそうです。

格というのは、文中の名詞がその文の中で主語として機能するか、目的語として機能するか、または名詞について所有・所属を表すか、というその機能に応じて、それぞれ主格、目的格、所有格と呼びならわされたもので、現代の英語の名詞の場合は古い時代の名詞と異なりいわゆる格変化をしません。代名詞には主語専用の形(I、he、sheなど)、目的語専用の形(me、him、herなど)があり、その形跡が残っていますが、名詞は所有格に “ ’s” を用いる以外は変化がありません。したがって現代の英語では名詞の格表示はなくても依然として主格、目的格の役割を果たしていることになります。(日本語の格表示は、「が」「を」「に」「の」などの助詞を名詞の後につけます。―それでこの種の助詞を格助詞と呼びます。)

すると、A of Bの場合、AはいいとしてもBはofの目的語ですから、A、Bは同格のはずはないのです。そう言えば、いわゆる同格の句としてはthe verb be 「beという動詞」、the boy Tom「トムという少年」と言います。この場合は、この句が主語の場合「主格 + 主格」、目的語の場合は「目的格 + 目的格」の二重構造となっていて問題ありません。(コンマで区切りを明確にしても同じです。) 

注記にあるように、地名の場合には一般にofをともなうようで、the City of Romeなど見た覚えがあります。例として、the small town of Tengen Weichs in south-western Germany「ドイツ南西部のテンゲン=バイクスという小さな町」が出ています。先例のthe name of John「ジョンという名前」では分かりにくいですが、日本語でも「京都の町」という感じで同格的に使用可能です。同格表現ではofの前の部分が後部の説明になっているわけで、JohnやRomeではそれが何に属するのかを明示している、という点で、前節で見た「記述」的な側面があると言えるでしょうか。しかし重要な中心部としてはA、Bともに対等であるという感覚があります。

この同格表現でもthe A of Bの形をとるものは「特定」のものを指しますが、Bが固有名でない場合もあります。前節のケイト・エルウッドさんの ”From Chopsticks to Mouth” という章( Takes and Mistakes , NHK Publishing, 2004年)の終わりの方で、日本語の「柿」と「牡蠣」のアクセントは区別が難しいので「柿」の方は「カキというくだもの」と言っている、でもいつか

the safety net of these additional words

なしでも分かってもらえるようになるからね、と言われます。この「転落事故防止ネット、安全網」とはすなわち「これらの言葉」(「…というくだもの」)のことで、

I ‘m sure that someday I won’t need ….

中のneedの目的語としては

the safety net

these additional words

のどちらでも構文上問題ありません。ただ、「安全網としての」そのような言葉、と説明がある方が分かりやすいのです。したがってofの両側の句はどちらも目的格としての資格があるというわけです。(ちなみにここにもいくらか比喩的な勢いを感じます。)

比喩の例で思い出した表現があります。映画『サウンド・オブ・ミュージック』に出てくる「マリア」という曲、マルガレータが、手に負えない修道女マリアをかばって修道院長らと歌う掛け合いのシーンに、

Berthe: She’s a headache!

Margaretta: She’s an angel.

Mother Abbess: She’s a girl.

というのがありました。まさに、

She’s an angel of a girl.

というべき場面です。この後、皆で、How do you solve a problem like Maria? と続きます。

そうだ、この映画を久しぶりに見てみよう。今回はこの辺で。

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