9 不定詞句を主格補語にもつ文について

Q: 不定詞句を補語としてとる例として

She doesn’t seem to think that way.

彼女はそんなふうには考えていないらしい。

のような、seemを用いた文が挙がっています(『ジーニアス英和辞典』)が、このような場合の用法についてはどのように考えるべきでしょうか。

(N.N.さん 一宮市

A: 一応、形容詞用法で叙述用法(補語)という考え方をします。ただし、参考書等でも明記しているように、形容詞句か名詞句かについて考えるのはあまり意味がないと言われています(例えば『徹底例解ロイヤル英文法』改訂新版、2000年、旺文社、p. 477)。ここでも以前不定詞の用法について書いた「2.3 自動詞の後の不定詞句」で「動詞の型からおさえる」方が意味をとるのが容易である点について触れました(2017-08-30)。

一般に文型を文の要素S、V、O、Cで分類する際には単語レベルでは、品詞(名詞、形容詞、動詞)はその形から判断がつく場合が多く、枠を設定するのは難しくありません。例えばseemやlookのあとにgood、strangeなど形容詞が来ればSVCとすぐ判断できます。ところが、句レベルになると

1 前置詞句  前置詞 + 名詞  → 形容詞 または 副詞

2 不定詞句  to + 動詞(原形)  → 名詞句、形容詞句、または 副詞句

とその品詞としての役割は2つ以上となり、形からは判断できません。さらに動詞に-ingがつく場合も

1 動名詞  → 名詞(句)

2 分詞  → 形容詞(句) または 副詞(句)

[句となる場合は使用されている動詞が目的語/補語/修飾語などをもつとき]

と同様に形からは分かりません。(ちなみに動詞に-edがついた場合は、それほど混乱はなく、過去分詞は形容詞として、過去形であればSVのV(述語動詞/定形動詞)として構造の理解は容易です。)

したがって、今ここでは副詞句の場合は除外するとしても、動詞の「~する」の部分をDO STと表記することにすると

  動詞 + to DO ST

  動詞 + DOing ST

  

に関して、形だけを見ても、後要素が形容詞なのか名詞なのか判断できないわけです。

今回は不定詞の場合に限定して考えてみましょう。

まず、動詞が他動詞の場合は目的語をとることができますから(目的語になるのは名詞のみですから)、この不定詞句を名詞句として「~すること」と読めます。この類の動詞は数多く、(これから)することに関してbegin「始める」、decide「決める」、plan「計画する」、refuse「断る」などがあります。

さて、いよいよ自動詞ですが、代表格であるbe動詞から考えてみます。存在を表すbe動詞は文の要素としてのO、Cはとりませんから(存在を表す句はこの場合修飾語句ですから)いわゆる連結詞としてのbe動詞ということになり、その形は

  A is B. AはBである。

これが、SVCの枠でBの部分が補語、定義上Bに来るのは名詞また形容詞です。

  He is a student.

  He is kind.

と、よく言われるようにAとBには同定の関係があります(A = B)。ここで後の文がそのように判断されるのは

  He is a kind man.

の「he(にあたる人)= a kind man」としての「等式」を読み、余剰分のa manが表れていない、と考えるわけです。

ここでBに不定詞句が入る

  S is to DO ST.

を考える場合、不定詞句を名詞に読むと「~すること」ですから、ここに人間は来そうにありません。(「人間 = こと」は苦しいですから。)すると、

  His dream is to become a movie star. 彼の夢は映画スターになることである。

のように「もの/こと」が主語の場合に限定されます。では人間が主語に来た場合はこの枠組みは使えないのでしょうか。次の文(『ジーニアス英和辞典』電子辞書版、大修館書店、2002年、beの項)はどうでしょうか。

  We are to meet at seven. 7時に会うことになっている。

一般にこの用法はbe toの部分をひとつの助動詞のように読むという一種熟語的解釈で読むことになっています。しかしここにある関係は「私たち = 7時に会う(予定の)人たち」を見ることができます。(不定詞のもつ未来性を読み込みます。)すなわち

  もの/こと is to DO ST.

          名詞句

  人/もの is to DO ST.

       助動詞

として、後者は実は形容詞句ですが、そのように読むのを慣用的に避けているとみることができます。(He is to blame.「彼に責任がある」という文内の熟語についても考えてみましょう。)

そこで、seemですが、辞書にこのような例が出ています(同上より)。

  She did not seem (to be) a satisfactory candidate for the post.

  彼女はその職の申し分のない候補者とは言いかねるようだった。

カッコ内のto be を使用する場合はその前の「人」の省略として意味をとれますが循環論になります。ここでも人が主語になる場合、不定詞句は形容詞句と読む方が合理的でしょう。(もちろん「列車」などはこの枠も可能です。)さらに、略式として

  She did not seem like a satisfactory candidate for the post.

の形も挙げてあります。後者の「like + 名詞」は形容詞句で「その職の申し分のない候補者のような(人)」です。(「その職の申し分のない候補者のようには思われなかった」と日本語で「に」と副詞句に訳すのは日本語の都合。)

以上のようにseemの後には、形容詞が来るという単語レベルの構造的な意識のほかに、不定詞句が続くと形容詞句としての勢いが潜んでいるというわけです。

蛇足ですが、先に引いた『ロイヤル英文法』にある、「seem toを1つの助動詞とみる考え方もある」という注記(p. 477)も理解していただけるでしょうか。(^^)/

カフェ店主

メール: akira-sMabelia.ocn.ne.jp (Mの部分を@にかえて送信してください。)

件名: 英語QA 

CIMG3004 20 Jan