前置詞 in の用法(4)

前置詞 in の後の名詞は「容れ物」という認識があるという観点で、in の用法を考えてきました。2回目には、[手段・材料]の用法を説明するのに、この一見不可解な用法が、「活動」を達成するための経験的な関連により、その活動に近接する「手段、材料」に転移して発展したという点を見ました。

どうやら、in を用いる句はこの[容れ物の中に入ること + そこでの活動]という構造で、理解できるようです。もちろん活動を含まない場合もあります。もの的な用法というわけです。活動が入る場合は主語や話者の視点が入ることになり、心理的な用法と言えるでしょう。他の用法もこの容れ物の中にどのような視点が入るか、または入らないか、を意識して、順に見てみましょう。(例文は『ジーニアス英和辞典』(シャープ電子辞書版)から。

前回この容れ物には、概念、すなわち、主語や話者の思いや考えも入れるという点を観察しました。ある視点(in this respect)や考え(in my opinion)と言うとき、かなり心理的なものですが、これも「もの的」です。(「視点」というもの、「考え」というものと言いますから。)

今回は語義項目7番目[割合・部類]と8番目[時]を読んでみましょう。

7番目に挙がっている、例文中の「世界」や「ポンド」は概念ですが、かなり具体的なイメージを持っています。

the longest river in the world 世界で最も長い川

pay a tax of 10 p in the pound 1ポンドにつき10ペンスの税金を払う

最初の句では客観的な記述の文ですから、「活動」はありません。「世界」は単なる「容れ物」です。後者は「1ポンド」という容れ物(稼ぎ)の中で10ペンス分を税金として払うことになります。

抽象概念のうちで最も日常で使用されるものは[時](8番目の語義分類)でしょう。その「時」が容れ物であるとすると、a「期間」が意識されますが、訳語に「…のうちに、…の間に」とあるように、その期間の中のある時点で、ある行為・動作が行われることになります。

wake up in [during] the night 夜中に目覚める

では、in または during と表記されているように、その期間のどこかで、その行為が行われることを表しています。この場合、動詞は「瞬間的な」(punctual)動作・行為を表す動詞です。

I learned French in six weeks. 6週間でフランス語を身につけた。

The population has doubled in the last five years. 人口は過去5年間に2倍に増加した。

の2文ではそれぞれ動詞の表す行為・状況は記された時間の間(それぞれ、学習する過程、倍増する過程が)続き、そしてその最後の時点で完結します。この点に関しては次のb[現在を始点とする期間の終点]に使用される「瞬間的な」動作・行為を表す動詞(到達動詞と言われる)の用法と同じ仕組みです。

訳語が「(今から)…の後に、…たって」とあり、やや違和感を覚える人もあるかと思いますが、これも in で示される容れ物が「経過」を意識させる枠を提示していると考えて、その一番後ろの時点で行為が行われると考えると納得がいきます。

I’ll leave in an hour. (今から)1時間したら帰ろう。

前置詞 for の用法について、以前書いたように(2021-02-25)、動詞が「完結的」な意味を持つ場合は「継続」の for の句は使えない場合があります。この点を『英語学の基礎』(p. 143)からの例で確認しておきましょう。

ある行為の「完結」を意味要素としてもつ build のような動詞は次のように in で表せますが、ここでは for an hour は使えません。(訳は引用者。)

Mary built a chair in an hour. メアリーは1時間で椅子を作った。

×Mary built a chair for an hour.

それに対して「活動」をもつ walk のような動詞は次のように for で表せますが、 in を使うことはできません。

Mary walked for an hour. メアリーは1時間歩いた。

×Mary walked in an hour.

このように in の[時]の用法では、「容れ物」の途中の時点や、「継続」する行為の場合は、「容れ物」の境界線での終結時点を示すことができるというわけです。"-_-" 

引用・参考文献:

西友七編『ジーニアス英和辞典』(シャープ電子辞書版)大修館書店、2001年

三原健一・高見健一『日英対照 英語学の基礎』くろしお出版、2013年

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