前置詞 for の用法について(6)

ジーニアス英和辞典』(電子辞書版、大修館書店、2002年)に沿って、for の用法を見てきました。

最後の項目Ⅴ[範囲・距離]に行く前に、Ⅲの[理由]の中の 10 にある訳語「で」について補足をしておきたいと思います。

確かにここの例でみる限り

for this reason この理由のために

shout for joy うれしさのあまり大声を上げる

はともに、「この理由で」「うれしさで」も意味をとれますが、また後者の後の説明

pity, grief, sorrow などの感情を表す名詞と共に用いられる

により[理由]が感情引き起こす説明として納得できます。ところが、

We are most grateful to you for helping us out. 

我々を救出してくださってとても感謝しております。.

の理由の個所を「救出してくださったために」とは言いづらいことに気がつきます。ここは以前書いたように(2020-08-31)「ために」では、意味はとれないことはありませんが、適切な日本語にはなりません。

不定詞の副詞用法に

感情表現 + to do ~

という形で「~して(うれしい、残念である)」と読む用法がありましたが、これも[理由]の副詞用法と呼んでいます。

共通しているのは感情を表す表現にその理由を加える、という点です。実はこの for の用法で最も頻繁に接しているのは thank という動詞による

thank 人 for doing ~

という枠で「~してもらって(誰かに)感謝する」と訳すことができます。ところが、辞書の訳語では「誰かに対して感謝する/礼を言う」と「対して」があてられているため、この for 句が理由を表すとは意識しにくいところです。辞書の例文では

Thank you for inviting [having invited] me to the party. 

パーティーに招待していただいてありがとう。

とありますから、ここには感情移入があるわけです。(この句の中を完了形で表すのは時間を調整するためです。先に挙げた不定詞句でもふつう完了形を用いません。)

このような感謝表現では for 句内の doing の意味上の主語は目的語として前に出ている人です。また for doing ~ の「~する」に「てもらう/ていただく」という恩恵の言葉を入れるのは thank (grateful) にある感情の意味を後ろに持ち込んだものです。

さて、冒頭で挙げた「で」ですが、これは[理由・原因]を表すニテから来る助詞で「なので」と同類です。また動詞連用形の後の「て」は完了の助動詞ツの連用形からとも言われる(したがって完了の意味がついてきています)助詞で、その用法には[原因・理由]を表す「から、ので」の意味を持っています。

したがって、このような感情表現の後に来る理由の句を「~して、~で」と、「ために/ための」以外に覚えておくのは役に立ちそうです。もっとも thank you ~ のような表現は相当早くから習熟していてそのような分析は不要と言ってもいいかもしれません。

さらに、訳語の「に対して」ですが、この訳語は for の後が名詞のときには有用です。行為がないため感情移入がそこにつかず客観的な意味合いを帯びますから。「で」で意味はとれますが、この場合は動詞表現を補って「~をもらって」などと補正します。しかし、これも今書いたようにすっかり習熟しているため問題になりません。"-_-"

21 Jan CIMG3533