英語の基本語とメトニミー

中学校の教員養成にかかわるようになってから、中学校の英語の教科書を生徒の側から考えるという視点を持つようになりました。

基本語などはほぼ日本語の対応語1語ぐらいで意味がとれるものと思っていましたが、教科書を見るとそれほど単純ではありません。

例えば have を見ると、次の3語義

1 持っている、ある、いる

  We have a nice music room. (New Horizon English Course 1, p. 5)

2 心に持っている、いだく

  I have a dream. (New Crown English Series 3, p. 69)

3 (経験として)持つ

  We had a great time. (New Horizon English Course 1, p. 52)

は直感的に理解できますが、

4 食べる、飲む

はちょっとどうしてかな、と考えてしまいます。教科書では

What do you have for breakfast? (New Horizon English Course 1, p. 25)

と出てきます。

そこで、ここは上記1から3の「持つ」で通してはどうか、と考えてみて気がつきました。

朝食に何を持つか?

そうか、テーブルの上に何かがのる、ということで、その後、食べるに違いありません。

これは「食卓に何かが来る」+「何かを食べる」という行為の前の部分で全体を表しているととることができます。このように部分で全体を表現する用法はメトニミー的語法と言われます。

一般的にメトニミー(換喩法 metonymy)と言うと

あるものを表すのに、これと密接な関係のあるもので置き換えること。(『広辞苑』)

と考えられていて

活字で印刷物を表す類(同上)

the President の意味で the White House を用いるなど(『ジーニアス英和辞典』)

のような例があがっていますが、空間的隣接性として、

The blond came with a baby in her arms. 金髪 → 金髪の女性 [部分 → 全体]

He picked up the telephone. 電話 → 受話器 [全体 → 部分]

 

などがあり、また時間的隣接性をあらわすものでは、

He is at the desk. 机に向かう → 勉強する 

[先行する行為(机の前にいる) → 後続する行為(勉強する)]

I’ll lay down my pen. 筆を置く → 書き終える 

[後続する行為(ペンなどを置く) → 先行する行為(ものを書く)]

などが使用例とされています。(上記例文は『言葉のシーン―日常言語の分析』pp. 98-99。)

上の have の例4に戻ると、朝食を前にするだけではまだ食べていないわけで、その部分の表現がその後の行為を表す例と考えられます。

そこで、中学校の教科書にある他の例を見てみましょう。

「電話をする」の call はもともと「呼ぶ」です。これはもともと呼び出しのベルが鳴ったところから、その後の(電話での)会話へとつながります。前の部分が後まで(全体)の行為を表しています。(イギリスの ring も同じです。)

時として get に「買う」という意味がある、と思っている人がいますが、これは「お金を出して」(またはそれに代わる行為を伴って)「手に入れる」という意味で、後の「手に入れる」部分でその「支払い」部分も意味していることになります。

「(ものを)もって行く」「(人を)連れて行く」の take はその行為の最初の「取る」部分で、(ふつう)場所を表す句が伴うために、その後の意味が推測できる、という仕掛けです。日本語ではその最初の部分だけを言うのではなく説明的に「行く」まで表に出さないといけないということになります。

このような用法は語レベルだけではなく、句レベル、節レベルにもあるに違いありません。"-_-"

参考文献:

笠島準一ほか、New Horizon English Course 1、東京書籍、2021年

根岸雅史ほか、New Crown English Series 3三省堂、2021年

新村出(編)『広辞苑』(第7版)岩波書店、2018年

西友七・南出康世(編)『ジーニアス英和辞典』(第4版)大修館書店、2006年

田路敏彦・阿部桂子『言葉のシーン―日常言語の分析』松柏社、1998年

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