被害の受身と have 動詞

使用例を数えたわけではありませんが、have のあとに「何か/誰かが~される」という構造が過去分詞で作られる場合、よくない状況・事態を表すことが多いように感じます。そしてこの構造にあまり慣れていない学生が散見されます。

中学校の指導項目にこの(過去分詞を補語として使う)形態は含まれていませんので、高校でしっかり補足されていない場合はこの意味が不鮮明になっているはずです。(補語として分詞[基本的には形容詞]が来ることを意識していない、ということになります。)

例えば(安藤『基礎と完成 新英文法』から)

I had my watch stolen.  私は時計を盗まれた。

I had my shoes shined.  くつをみがいてもらった。

He had his plan made.  彼は計画を立ててしまっていた。

では、最初の文が「被害」、あとの文が「使役」、そして「結果」とされますが、この解説は(上記参考書では)「経験受動態」(§136)や「使役」「結果」(§309B)という形でそれぞれ、「受動態」「分詞」という章で読むことができます。

しかし、簡単な方法は辞書を利用することで、have の項を見れば(ほとんど)すべての用法を見ることができます。

基本的な知識としては have 動詞が補語として不定詞や分詞をとることができる、という次の形態を知っておく必要があります。

have + 目的語(名詞) + 分詞/(原形)不定

これは have 動詞がもつ、文の要素をとる構造で、辞書によってその表記方法が異なります。

[SVO doing][SVO do][SVO done] 

ジーニアス英和辞典

文型5(目 + done)、文型5(目 + doing)、文型5(目 + do) 

―グローバル英和辞典

[have … doing][have … do][have … + 過去分詞] 

―アプローチ英和辞典

一般的に学習辞典の方が用法を見分けやすく工夫されています。(初級の学習者は辞書の表記方法を読んで慣れておくべきです。)

では、ここで『ジーニアス英和辞典』に沿って、過去分詞が使用された構造について見てみましょう。

「被害」の経験と読める場合は基本的にはその文脈によるもので英文自体の意味を理解する必要があります。[SVO done]の項では次の3つの意味が挙がっています。

a  [使役](目的語に強勢) 
  She had the roof repaired yesterday.  
  彼女は昨日屋根を修理してもらった。 
b  [被害](目的語と done に強勢) 
  He had his wallet stolen on a crowded train.  
  彼は混雑した電車の中で財布を盗まれた。
c  [完了](米用法として)(done に強勢)
  She always has her report finished by the deadline.  
  彼女はいつも締め切りまでにレポートを仕上げてしまう。

この中で被害の意味は目的語(O)と補語(C)の部分

his wallet (was) stolen on a crowded train

をもつ b の内容から出てきます。「使役」の意味は have 動詞の補語に原形不定詞が来る構造(have someone repair the roof)から、その受動形として既習項目と連携できます。また c. の完了性(結果)を表に出した表現は他とは違い、(同辞書の注記にあるように)文の主語自身によって何かがされる、すなわち、

She always has her report finished (by herself) by the deadline.

が頭にあります。

問題はどのように上記の日本語となるか、ですが、辞書の訳語「してもらう」(使役)、「される」(被害)、「してしまう」(完了)だけを覚えておいても、文の意味が理解されないでは自然な日本語にはならないでしょう。(もっとも意味が分かれば訳文に執着する必要はありません。)

最初に挙げた参考書の例文でそれぞれの単語レベルで意味をとりましょう。まず過去分詞の意味ですが、実は、過去分詞のもっている意味は「受動」+「完了」なのです。「れる/られる」+「た/ている」→「(ら)れた/(ら)れている」が日本語として対応しますが、テイルは(完了の意味はあるものの)少し弱いので避けて、タも(もともと完了としても)過去のように感じて難がありますが、こっちをとって(ここで昔の助動詞「たり」(「つ[完了]の連用形て+あり」から)の連体形の「たる」を使ってもいいでしょう)、

I had [my watch stolen].  

私は[私の時計が盗まれた(る)こと]を(経験として)もった。

I had [my shoes shined].

私は[くつがみがかれた(る)こと]を(依頼するなど、人を使って)もった。

He had [his plan made].  

彼は[計画がたてられた(る)こと]を(自分で行って、結果として)もった。

と解釈すると、どの用法にもたどりつけるはずです。ただ参考書類にはこのような中間的な日本語は書きにくいのではないでしょうか。この文脈依存性については安井・安井『英文法総覧』の§23.8にも解説があります。"-_-" 

[上記の「経験受動態」ですが、「被害」ではなく「利益・恩恵」を表すととれる場合があります。このような「経験」のもうひとつの用法については『謎解きの英文法 文の意味』の「Have が表す2つの意味」pp. 128-133を参照してください。]

参考・引用文献:
安藤貞雄『基礎と完成 新英文法』(新装版)開拓社、2021年
伊藤健三・廣瀬和清『アプローチ英和辞典』研究社、1983年
久野暲・高見健一『謎解きの英文法 文の意味』くろしお出版、2005年
南出康世・中邑光男『ジーニアス英和辞典』(第6版)大修館書店、2023年
佐々木達ほか『グローバル英和辞典』三省堂、1986年
安井稔安井泉『英文法総覧』(大改訂新版)開拓社、2022年