メトニミーは、簡単に表現すると、ある概念をそれと関係を持つ別の概念と結びつける、言語上の認知過程、と言えるでしょう。場所に例をとるとハリウッドでアメリカの映画を指す場合、人名ではシェイクスピアでその人の書いた戯曲や詩を意味する場合などです(Metonymy, p. 1)。名詞に限らず、動詞にも同類の過程を見ることができます(2021-10-23)。
最近目に付いた、動詞の時間関係のメトニミーについて考えてみましょう。(例文は『基礎と完成 新英文法』p. 80から。)
John tells me he is moving from No. 20.
ジョンは20番地から転居すると言っている。
I hear Mary has gone into hospital.
メアリーは入院したと聞いている。
のように、現在形(tells、hear)で時制上は現在完了、過去を表す言い方があります。この構造は、話し手が今から話題にしたい内容が現在と深くかかわるところから、現在の時間に引き寄せている表現で
1 過去 現在
2 言った/聞いた 知っている
3 told/ heard
4 tell/ hear
現在の時間を重視して、動詞の「聞く/言う」という意味内容だけ現在時に滑らせていると考えられます。(3の時間構造を4で代用しています。下線の部分。)このような伝達動詞(「発信動詞」「受信動詞」)には、言った/聞いたという過去の行為なくして、そこで伝えられる内容を発言することはできない、という文脈があります。しかもここでは必ず1人称(私)が関与しなくてはなりません(『現代英文法講義』p. 89)。
日本語でも
ジョンは20番地から転居すると言うから驚いた。
メアリーは入院したと聞くが大丈夫か。
など、文脈によっては現在形も可能ですが、ふつうは上記のようにテイルという形で表現されます。ここには完了の意味が含まれている、という点では英語と異なります。このような時制構造内のメトニミーは完了形を過去形で代用するという現象にも見られます。(ただしアメリカの口語とされます(『基礎と完成 新英文法』p. 95)。
You missed him. He just went out.
会いそこねましたね。今出かけたところですよ。
ここには今いないという現在時が文脈で示され、
1 過去 現在
2 出かけた いない
3 has gone out
4 went out
過去から現在につながる時間が過去時で表現されています。3を4の形式で表現している、という点でメトニミー的な表現法と言えるでしょう。
よく見ると確かにメトニミーは至るところにある(Metonymy is everywhere.)ようです(Metonymy, p. 197)。"-_-"
参考文献:
安藤貞雄『現代英文法講義』開拓社、2005年
安藤貞雄『基礎と完成 新英文法』(新装版)開拓社、2021年
Jeannette Littlemore, Metonymy: Hidden Shortcuts in Language, Thought and Communication, Cambridge University Press, 2015.