語彙を強化するには

語彙を増やす方法ということになると、第一に造語成分を多く覚える、という方法があります。漢字の部首(偏 (へん)、旁 (つくり)、冠 (かんむり) など)を覚えることで漢字の構成を知り効率を高めるのと同じです。英語学では形態素(意味の最小単位)と言って、例えば、次のように分けられます(例は『日英対照 英語学の基礎』p. 34)。

un-differ-ent-iat-ed-ness  「区別されていないこと」  

という語は、まず differ(異なる)という動詞に形容詞を作る接辞 –ent を付けて、それをさらに動詞にする接辞 –(i)ate(させる)により、differentiate(区別する)が作られます。この動詞に、過去分詞(受動の意味)とする接辞 –ed を付けて、「区別されている」differentiated となり、これを否定する接辞 un- で「区別されていない」undifferentiated が得られます。最後に名詞にする接辞 –ness を追加し上記の意味になります。

前から意味を追加する接頭辞(un-)と後ろから意味を加える接尾辞(-ent、-ed、-ness)の知識が必要となります。この要素はアクセントの位置を知る手掛かりにもなりますから、参考書によってはアクセントのルールの解説に記載しているものもあります(『基礎と完成 新英文法』)。一覧を見ることももちろんできますが(『英語便利辞典』pp. 420-424)、辞書に記載がありますから、必要に応じてその項を見るのが便利です。(電子辞書では検索時ハイフンは無視します。)

単語の中心的な意味を担う、それ以外の要素に関してはこれも一覧で見ることもできます(上記辞典、pp. 408-420)が、出会った単語から少しずつ学習していくのが効果的です。この場合フランス語、ラテン語、(古典)ギリシア語を起源とする造語要素が多くなりますから、英語の語彙に加えて古い造語要素の意味を覚える必要があります。ここで実は役に立つのは日本語の中のカタカナ語です。カタカナ語の方は日本語の中で本来の意味からずれているものが多いですが、それぞれの語の音が近似の意味と結びつけてくれますからこれらの知識を利用しないという手はありません。

したがって、語源活用とカタカナ語の利用で語彙を増やすという方法が有効であると言えるでしょう。ただし、その要素を構成する文字数が少ない場合は、あまり強く印象づけられませんから、単語内にその要素があるかを知るためには語源辞典または語源を各語の項に記載している辞典があると便利です。(初級者用)学習辞典や、学習者用英英辞典(monolingual dictionary)はあまりこの点では役に立ちません。(American Heritage Dictionary のポケット版[日本の学習辞典と同じ新書サイズ、ペーパーバック]は項目末尾に簡潔な説明があり便利です。)

カタカナ語の知識の活用については、例えば、「ポータブル」という語や、(ホテルなどの)「ポーター」を知らない人はないでしょう。このポートという部分がラテン語の「運ぶ」(carry)という意味の port-are (-areは不定形語尾)から来ていると関連づけると、transportation「越えて(trans-)もの・人を運ぶこと」(ラテン語から)や portfolio「書類運び(書類を運ぶもの)、書類(folio)などを入れて運ぶ入れもの」(イタリア語経由)、 portmanteau「外套/マント運び(外套を運ぶもの)、(外套が入るほどの)旅行鞄」(フランス語経由)を難なく覚えることができます。

すでに日本語に「エアポート」「レポート」は入っていますから、単語暗記という点ではあまり役に立ちませんが、港の「ポート」が「もの・人を運び込む場所」で、水路の時代の「出入口」(現在は空路の出入口で「エアポート」)、re-portが「後戻りして(re-)何かの情報を持ち込む」と知っていると、最近のインターネット上の検索「ポータル」も「情報の出入口」と推測できます。(ラテン語の「門」porta から。)

というわけで、語源や造語成分を利用して語彙を増やすことを勧める本は、今後英語を学習する人にとっては非常に有用です。このような視点から単語を見る場合は、電子辞書のようなデジタル的なものは楽しくありません。紙の辞書で、検索語以外の前後の単語やその意味も見えるような(アナログ的な)辞書が役に立ちます。(しかも赤でマーキングしておくと次の検索時に便利です。)

最近語源活用を謳っている本が目に付きますが、語学に関わっている人々にとっては普通のことですので、あまり手に取って見ていません。昔、このような知識が必要であることを教えてくれた本(多数あります)の中で、印象に残っている3冊を以下に書いておきます。もちろんこれ以外にもいい本はありましたが、この3点は読みやすく手ごろな大きさだと思います。"-_-"   

今里智晃『英語の語源物語』丸善丸善ライブラリー)、1997年
佐久間治『英語の語源のはなし』研究社出版、2001年
渡部昇一『英語の語源』講談社現代新書、1977年


引用・参考文献:
安藤貞雄『基礎と完成 新英文法』(新装版)開拓社、2021年
小学館外国語辞典編集部編『英語便利辞典』小学館、2006年
増田貢『英語形態論』篠崎書林、1978年
三原健一・高見健一『日英対照 英語学の基礎』くろしお出版、2013年

 

 

動詞句の構造

英語の文を要素で表した時に

SV
SVC
SVO

などで書かれることが多いと思いますが、この V の部分に入って来る構造は、例えば手元の参考書(『基礎と完成 新英文法』p. 122)で見ると (1) takes から (24) may have been being taken まで、24種類がリストになっています。この部分を動詞句と呼んでいますが、ここでのように take を例にとると分詞をともなって be taken(受動態)、be taking(進行形)などの拡張形(日本語にならって複合形とも)をつくるために一見複雑に見えます。

この部分の構造がしっかり書けない人がいる理由の一つは、完了形、進行形、受動態とそれぞれその形態だけに注意が行っていて、完了進行形(継続用法)どまりであることに原因があるようです。この部分の使いこなしは簡単ですから、ここで覚えてしまいましょう。

まず、分詞と作る基本的な形態は次の3つです。

A have + 過去分詞 (完了形)
B be + 現在分詞 (進行形)
C be + 過去分詞 (受動形)

この形はこの順序でしか組み合すことができません。日本語の

する + れる/られる + ている + た
動詞    受動      状態   完了

が、この順序で「~されていた」としか言えないように英語にも規則があります。

英語の同様の組み合わせは

完了形 + 進行形 + 受動態

と逆構造になります。上記のABCを全部組み合すと

A     have + 過去分詞                (完了形)
B          be + 現在分詞            (進行形)
C              be + 過去分詞        (受動形)           
A+B+C   have   been  being  過去分詞     (完了進行受動態)

となります。A、B、Cのうちから2つを組み合わせる形は、この順でしか「足し算」できませんから、

A + B =  have been + 現在分詞 (have been taking)
A + C =  have been + 過去分詞  (have been taken)
B + C =  be being + 過去分詞  (be being taken)  

の3形態ということになります。

以上の形態(左端の動詞は原形)を合わせると
ABC 3形
A+B A+C B+C 3形
A+B+C 1形

全部で7つの形態があることになり、そのそれぞれが現在形、過去形として、または助動詞をともなって使用されますから、7 × 3 = 21 、さらに

takes
took
will take

など動詞が分詞のない構造で使用される3形を加えると、24通りの形が得られというわけです。

ただし、A+B+Cの組み合わせは上記参考書の例にも注記があるようにあまり使われません。

The building will have been being built for three months next week.
そのビルは来週で、3ヵ月間建築中ということになる。

という文を覚えていますが、これも普通は、

The building will have been under construction for three months next week.

などと言うと注記されていたと思います。出典は思い出せませんが、修士論文を書いていた時に暗記しましたから、おそらく下に挙げたリーチかパーマーにあったものと思います。"-_-"


引用・参考文献:
安藤貞雄『基礎と完成 新英文法』(新装版)開拓社、2021年
パーマー、F. R.(安藤貞雄 訳注)『英語動詞の言語学的研究』大修館書店、1972年
リ-チ、G. N.(國廣哲彌 訳注)『意味と英語動詞』大修館書店、1976年
Twaddell, W. F., The English Verb Auxiliaries (Second Edition), Brown University Press, 1963.

 

 

日英語の呼びかけ語

ずいぶん古い話になりますが、ある高名な宗教学者の書いたコミュニケーションに関する本(『コミュニケーション入門』)の中で、日本人の「~さん」という呼びかけ表現について書かれた一節を読んで、日英語の呼びかけかたの違いに驚きました。

日本の大学で学び始めておそらく間借りすることになる(今ならホームステイというところ)その家の奥さんは、著者が到着した翌日の朝食時の会話で姓に「さん」付け(英語ではMr. + 姓 (family name)にあたります)で著者と話しました。著者はそのことに悩んで、一日中勉強に身が入らなかったと言います。

I wondered what I had done to make her so cold and formal.  (同書、p. 9)
どうしてあのように冷たく形式ばった言い方をされたのだろう。(何か悪いことでもしたかな。)

朝食時にはその奥さん(ホストマザーというところ)は、

ごく親しい友人や家族には個人の名前を使い、それ以外の人には姓を使う
In Japan, only intimate friends and family use personal names; everyone else is called by family names.  (同書、p. 10)

という日本の習慣に従っていただけです。(その日の夕食後にその家の長男に打ち明けて、「では家では個人名を使いましょう。でも日本ではこの呼び方に慣れないとね」ということになり解決します。)

例えばアメリカでは母親が腹を立てて、子供を叱る場合にはその腹の立ち具合によって違いがあり、一番きつく怒るときは

first name + middle name + family name

と全部言うようです(同書注記、p. 111)。

英語では、この(姓名の)名を使って会話をする習慣は上記の日本の「内輪」の範囲を超えて職場などにも適用されます。

小説『あん』の英訳書(Sweet Bean Paste)の中ではこの「姓(名字)呼びかけ法」から「名(個人名)呼びかけ法」(first name basis)への変換を図る個所があります(原文pp. 22-23、訳文 p. 15)。

主人公、辻井千太郎は、どら焼きの店を手伝ってくれることになる吉井徳江を原文では「吉井さん」と呼びます。(ただし後半では「徳江さん」も。)そして、「吉井さん」は「店長さん」と呼びます。ところが、狭い店内で常時ともに働く2人は英語ではどうしても個人名呼びが自然なのです。

「でも私、本当に働けるのね」
「それで……お兄さんのお名前は?」

というやり取りが

“But I really can work here, can’t I?”
“Yes, you can. What should I call you? Mrs... Miss...”
“Tokue is fine. And what’s your name, young man?”

と吉井さんは先にトクエと呼ぶことを認めたうえで、相手の名前を聞きます。

「辻井千太郎といいます」
「つじいせんたろう? いい名前ね。俳優さんみたいね」
「いや。そんなんじゃないです。自分なんて……」

“Sentaro Tsujii.”
“Sentaro Tsujii? What a lovely name. It sounds like an actor.”
“Hah, I don’t think so. It’s just me...”

そう言って、千太郎はメモ用紙に自分の名前を書いて見せます。

「そうしたらお兄さんのことは……辻井さん、それとも店長さん?」
“And what should I call you?”

「どっちでも」
“Sentaro will do.”
「それなら……店長さん。ここのあんは店長さんが炊いてるの?」
“In that case, Sentaro. Do you make the bean paste here?”
「え……まあ」
“Err... well...”

と続きます。数か所、吉井さんは店長さんを boss と呼ぶ場面もありますが、基本的には、Tokue、Sentaro で会話は進められます。

日本人としてはどうもこのような「見せかけの親密さ」(phony intimacy、『コミュニケーション入門』p. 11)には馴染めませんが、英語圏の人々の中にいるときはある程度慣れるべきかもしれません。

因みに上でちょっと触れましたが、吉井さんが店を離れてからは「徳江さん」と呼ぶようになります。この作品を見ると、日本語では

肩書 → 姓+さん → 名+さん → 名(のみ)

と親しさの度合いが増していくのが分かります。"-_-"


引用・参考文献:
Carl Becker, Communication: East and West(コミュニケーション入門), Annotated by Nobuo Naruke(成毛信雄注), Eihosha(英宝社), 1988.
ドリアン助川『あん』ポプラ文庫、2015年
Alison Watts (Transl.), Sweet Bean Paste, Oneworld, 2017.

 

 

関係詞としての what について

覚えておくと便利な文に

Never put off till tomorrow what you can do today.  
今日できることをあすまで延ばすな。

ということわざがあります(訳は『基礎と完成 新英文法』p. 56から)。この中の what 節は次の一連の構造と同じように(疑問詞の意味は消えて)関係詞としての用法です(例文は「Where で始まる節構造」21-08-29から)。

That is when he lived there.  
それは[そんなことがあったのは]彼がそこに住んでいた頃のことだ。
Bill is very talkative.  This is why I don’t like him.  
ビルはとてもおしゃべりだ。こういうわけで彼が嫌いなのです。
Most Americans like where they live.  
たいていのアメリカ人は、(自分たちが)住んでいるところが好きです。

どれもwh-語の先行詞(それが指す名詞)

the time/period
the reason 
the place 

は省略されています。すなわち中心的な語は英語の中にはなく、文脈上理解される外にあることになります(外心構造)。それで上記の文をこの構造で解釈するときは、日本語では後ろから前に

〈彼がそこに住んでいた〉頃(period)
〈彼が嫌いな〉理由(reason)
〈彼らが住んでいる〉ところ(place)

と中心となる名詞を補うことになります(内心構造)。これらの文は、それに対応する疑問詞の文

いつ彼はそこに住んでいたか
どうして(私は)彼が嫌いか
どこに彼らが住んでいるか

のように、文全体が名詞(節)となる構造とは異なります。

これと同じように上記、what 節を考えると

what you can do today 今日できること

では疑問詞の意味「何」を生かしている、

何を(あなたは)今日できるか

ではなく、

〈今日できる〉こと(thing)

と、what の疑問の意味を消して、その「何か」が表す「こと」「もの」を中心とした構造になっています。

この文を最初見たときこの「こと/もの」はどこから出てきたのか不思議に思いましたが、

I gave him what little money I had.
私のなけなしのお金を(全部)彼に与えた。

のような文を見て、どうやらwhat thing「どんなこと/もの」が意識されても、そのthingが実質上不要なので(what thing = what)表に出ないに違いないと気づきました。それで「全体的な」意味合いをもつのも理解できるでしょう。同様の例は上記参考書(p. 344)にもあり、

I will give you what help I can.  できる限りのお手伝いをしましょう。

のように、thing 以外の名詞であれば what の後に続くことになります。この文では what … I can (give) が挟みこむように前後から I will give you help 内の help に付いていて(関係付けて)全体で名詞節を構成すると考えられます。

他の上記の語が副詞であるのとは異なり形容詞的な使用から来ているとしても、「何か」の疑問の意味を抜くと「こと」「もの」となるのですから、when、where、why と(howも同様に)並行して理解するのも悪くないでしょう。ただし、who にこの構造がないのはどうしてか分かりません。"-_-"


引用・参考文献:
安藤貞雄『基礎と完成 新英文法』(新装版)開拓社、2021年
西友七編『ジーニアス英和辞典』(電子辞書版)大修館書店、2002年
山科美和子ほか編著、Reading Base―Skills for Academic Success、センゲージ ラーニング、2015年

 

 

被害の受身と have 動詞

使用例を数えたわけではありませんが、have のあとに「何か/誰かが~される」という構造が過去分詞で作られる場合、よくない状況・事態を表すことが多いように感じます。そしてこの構造にあまり慣れていない学生が散見されます。

中学校の指導項目にこの(過去分詞を補語として使う)形態は含まれていませんので、高校でしっかり補足されていない場合はこの意味が不鮮明になっているはずです。(補語として分詞[基本的には形容詞]が来ることを意識していない、ということになります。)

例えば(安藤『基礎と完成 新英文法』から)

I had my watch stolen.  私は時計を盗まれた。

I had my shoes shined.  くつをみがいてもらった。

He had his plan made.  彼は計画を立ててしまっていた。

では、最初の文が「被害」、あとの文が「使役」、そして「結果」とされますが、この解説は(上記参考書では)「経験受動態」(§136)や「使役」「結果」(§309B)という形でそれぞれ、「受動態」「分詞」という章で読むことができます。

しかし、簡単な方法は辞書を利用することで、have の項を見れば(ほとんど)すべての用法を見ることができます。

基本的な知識としては have 動詞が補語として不定詞や分詞をとることができる、という次の形態を知っておく必要があります。

have + 目的語(名詞) + 分詞/(原形)不定

これは have 動詞がもつ、文の要素をとる構造で、辞書によってその表記方法が異なります。

[SVO doing][SVO do][SVO done] 

ジーニアス英和辞典

文型5(目 + done)、文型5(目 + doing)、文型5(目 + do) 

―グローバル英和辞典

[have … doing][have … do][have … + 過去分詞] 

―アプローチ英和辞典

一般的に学習辞典の方が用法を見分けやすく工夫されています。(初級の学習者は辞書の表記方法を読んで慣れておくべきです。)

では、ここで『ジーニアス英和辞典』に沿って、過去分詞が使用された構造について見てみましょう。

「被害」の経験と読める場合は基本的にはその文脈によるもので英文自体の意味を理解する必要があります。[SVO done]の項では次の3つの意味が挙がっています。

a  [使役](目的語に強勢) 
  She had the roof repaired yesterday.  
  彼女は昨日屋根を修理してもらった。 
b  [被害](目的語と done に強勢) 
  He had his wallet stolen on a crowded train.  
  彼は混雑した電車の中で財布を盗まれた。
c  [完了](米用法として)(done に強勢)
  She always has her report finished by the deadline.  
  彼女はいつも締め切りまでにレポートを仕上げてしまう。

この中で被害の意味は目的語(O)と補語(C)の部分

his wallet (was) stolen on a crowded train

をもつ b の内容から出てきます。「使役」の意味は have 動詞の補語に原形不定詞が来る構造(have someone repair the roof)から、その受動形として既習項目と連携できます。また c. の完了性(結果)を表に出した表現は他とは違い、(同辞書の注記にあるように)文の主語自身によって何かがされる、すなわち、

She always has her report finished (by herself) by the deadline.

が頭にあります。

問題はどのように上記の日本語となるか、ですが、辞書の訳語「してもらう」(使役)、「される」(被害)、「してしまう」(完了)だけを覚えておいても、文の意味が理解されないでは自然な日本語にはならないでしょう。(もっとも意味が分かれば訳文に執着する必要はありません。)

最初に挙げた参考書の例文でそれぞれの単語レベルで意味をとりましょう。まず過去分詞の意味ですが、実は、過去分詞のもっている意味は「受動」+「完了」なのです。「れる/られる」+「た/ている」→「(ら)れた/(ら)れている」が日本語として対応しますが、テイルは(完了の意味はあるものの)少し弱いので避けて、タも(もともと完了としても)過去のように感じて難がありますが、こっちをとって(ここで昔の助動詞「たり」(「つ[完了]の連用形て+あり」から)の連体形の「たる」を使ってもいいでしょう)、

I had [my watch stolen].  

私は[私の時計が盗まれた(る)こと]を(経験として)もった。

I had [my shoes shined].

私は[くつがみがかれた(る)こと]を(依頼するなど、人を使って)もった。

He had [his plan made].  

彼は[計画がたてられた(る)こと]を(自分で行って、結果として)もった。

と解釈すると、どの用法にもたどりつけるはずです。ただ参考書類にはこのような中間的な日本語は書きにくいのではないでしょうか。この文脈依存性については安井・安井『英文法総覧』の§23.8にも解説があります。"-_-" 

[上記の「経験受動態」ですが、「被害」ではなく「利益・恩恵」を表すととれる場合があります。このような「経験」のもうひとつの用法については『謎解きの英文法 文の意味』の「Have が表す2つの意味」pp. 128-133を参照してください。]

参考・引用文献:
安藤貞雄『基礎と完成 新英文法』(新装版)開拓社、2021年
伊藤健三・廣瀬和清『アプローチ英和辞典』研究社、1983年
久野暲・高見健一『謎解きの英文法 文の意味』くろしお出版、2005年
南出康世・中邑光男『ジーニアス英和辞典』(第6版)大修館書店、2023年
佐々木達ほか『グローバル英和辞典』三省堂、1986年
安井稔安井泉『英文法総覧』(大改訂新版)開拓社、2022年

 

 

テキストデータだけを取り出す方法

 新学期が始まり、大学では卒業論文に取りかかる学生も多いと思います。毎年同じような指導をすることになりますが、今日は参考文献として書名等の図書情報をウェブサイトから取り込む方法を紹介します。他にも種々あると思いますが、次の例はテキストファイルを利用する方法です。(もちろん私のオリジナルではありません。Mac から Windows に乗り換えたときに同僚から習った方法です。)

 まず、テキストファイルをデスクトップに「作業用」として置いておきます。(この方法のいい点はこの作業用ファイルをそのままデータとして残せることです。)

 テキストファイルは、文字情報だけを保存するファイルのことで、装飾類(フォント、ポイント、色など)は選べません。次の手順ではじめに作っておきましょう。

1 「スタート」(キーボードの最下列の窓ロゴ[四角が四つ])を押す

2 「W」の「Windows アクセサリ」の下向き矢じりをクリック

3 「メモ帳」をクリック

4 開いたメモ帳の「ファイル」からファイル名を付けて(「上書き」または「名前を付けて」)「保存」―保存場所の指定をしない場合はデスクトップ[最初の画面]上に白いロゴとして残ります)

5 横罫線が入っている白い(右上角が折り込まれている)ファイルを確認

 それでは、所属の図書館のOPAC(所蔵目録検索システム)にアクセスして、検索窓にいくつかキーワードを入れて、関連文献があるか調べます。(複数のキーワードを入れるときは語間にスペースを入れます。)

 書名等が出てきたら、取り込もうと思う文字列を反転(暗い色付きに)します。そしてこの部分をコピーコマンドでコピーします。簡単な方法は、コントロールキー(Ctrl)を押したまま、C文字キーを押します。(もちろん「右クリック」からも「コピー」に行けます。)

 そして、この図書館のサイトのウインドウを右上の「×」の左にある「四角」か「横線」をクリックして(必要なら動かし[上のバーを左クリックしたまま移動して])、テキストファイルのページ上でクリック(そのファイルに作業位置が移動します)、ここにペーストコマンドで先ほどの文字列を貼り付けます。今度はコントロールキー(Ctrl)を押したまま、V文字キーを押します。(もちろん「右クリック」から「貼り付け」でも可。)キーの組み合わせによる簡単な操作方法については末尾の本を参考に。

 ここに移った文字列を今度はワードなどのファイルに同様に移動します。こうしてこのファイルを文字情報だけを取り出すフィルターに利用するわけです。

 この同じ方法でウエブ書店のサイトに行き、必要な文字列をコピーして、テキストファイルに落とし、テキストのみを目的のワープロソフトに運びます。

 そんな面倒くさい、という向きもありますが、この方法が分かりやすいと言って今でも使い続けている人がかなりいます。試してみてください。

 このテキストファイルですが、メールの受信ページから「メールの保存」(操作選択など)から「テキスト保存」をクリックすると「メモ帳」ファイル(テキストファイル)として、「ダウンロード」フォルダに保存されます。このファイルをそのままメールアドレス用のファイルとして利用することができます。もちろん、ファイル名を、「や 山本」などと頭に整理用の一文字と氏名も入れて変えます。メアドフォルダーに入れておけば最初にその人から来たメールが残り、さらに補足データも適宜記入できます。

 一部テキストファイルで提供されたデータが Mac の PC 上では読めない場合があります。この場合は次のように文字コードを初期設定の UTF-8 に変えます。

 「ファイル」から「名前を付けて保存」に行き、窓の一番下の列、「保存」「キャンセル」の左にある「文字コード」の下向き矢じりをクリックして「UTF-8」を選んで(クリック)、ファイル名をそのままに(上書きして)保存します。 "-_-"

 

参考文献:

日経PC21 (編集)『ショートカットキー超速時短術』日経BP (2020年)

 

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「行く」「来る」を表す be 動詞について

自動詞としての get「到着する」についての例(2023-02-28 Tue)でも見ましたが、”get to 場所” のような句では

Could you tell me how to get there?

そこに行く方法を教えてください。

など、「行く」と言う方が好まれるようです。(文例は New Crown English Series 3 より。訳は引用者。)日本語ではどうやら「行く」「来る」動詞を優先的に使用するという傾向がうかがえます。これが影響してか、英語を話すときにも英語では be 動詞で表現するところを次のように「行く」「来る」としてしまう、という指摘があり、日本人の英語としては興味深い特徴と言えます。

ある会議に関して話題にしています。

I went there (to the meeting). Why didn’t you come?

英語の母語話者であれば、

I was there. Where were you?

と表現しそうです。行動のとらえ方が異なっている、と考えられます(「ニホン英語のきざし」『新アジア英語辞典』p. 275)

英語の授業でも、開始時に先生が「前回どこまで行きましたか」と言うところ

Where were we?

と言っていました。英語を習い始めて早い時期に出会う表現に

Where are you from?

I am from Kyoto.

というやり取りがありますが、ここも「来ました」です。完了形でよく使う表現「どこかへ行ったことがある」も

I have been to Nara.

と be 動詞を使います。他にも

I’ll be back in a minute. すぐ戻って(back)きます。

He'll be here soon. (彼は)まもなく来ます。

など、まず日本語では「いる」(「すぐに戻っているでしょう」「ここにいるでしょう」など)とは言わない例が多いのに気がつきます。

英語では習慣化していませんが、出かけるときに言う、「行ってきます」という表現は「行く」も「来る」入っていますが、しいて英語で言うなら、

I’m off.

I’m leaving.

I’m going.

で最後の例には「行く」のみ入っているという具合です。また、「ただ今(帰ってきました)」という挨拶も英語では(やはり習慣化していないとしても)

I’m home.

と言えるようです。会話表現に多く使用されそうですから、意識的に be 動詞寄りの表現を使うようにすると英語が話しやすくなるかもしれません。"-_-"

引用・参考文献:

英辞郎』(第11版)アルク、2020年

根岸雅史ほか、New Crown English Series 3三省堂、2021年

本名信之・竹下裕子編著『新アジア英語辞典』三修社、2018年  

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